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Research 林 Jeremy Loop Roots
大八木 一秀 / イダキ奏者
レッド・センター 砂漠のアボリジナルと住む

【にぎわうストアーと儀式】

ソーリー・ビジネスが始まってから、見慣れないアボリジナルの姿が目に付くようになってきた。その人たちは近隣のコミュニティから、ソーリー・ビジネスのために集まってきたのだろう。彼らがWatiyawanuに暮らすアボリジナルと握手を交わしていく姿は、ここ数日間ですっかり見慣れた風景になっていた。

普段、Watiyawanuには200人前後が暮らしている。しかし、日が経つにつれて徐々に人が集まり、1週間ぐらいを過ぎると300人以上がコミュニティで暮らしているんじゃないか?という気がするほど人が増えてきた。以前にフェイが話していたアボリジナル同士のトラブルはなかったが、違った所でその影響が出てきた。

人数が増えるとどうなるかというと、ストアーが終日忙しくなる!商品は2週間に一度しか運ばれてこないため、消費と供給のバランスが崩れていく。アボリジナルの人たちが好む食べ物や飲み物は、ある程度共通したものがあるようで、売れ筋の商品がみるみるうちになくなっていく。そうなると、普段はあまり売れない商品でもここぞとばかりに売れていくのだ。経営者のティムとしては在庫の処分ができるので、嬉しいことにちがいない。

ある日の午後のことだ。忙しくストアーで働いていると、Watiyawanuで暮らしているアボリジナル男性を先頭に、見知らぬアボリジナルの老若男女が一列に並び、葉っぱのついた木の枝を手に持ちストアーの中に入ってきた。「何をしているんやろ?」あきらかに買い物にきている様子ではなく、みんな無言で手に持った枝を地面に引きずるように店内を練り歩いている。やがてティムが店内から倉庫に入る扉を開けると、その行列はゾロゾロと倉庫の地面も木の枝で引きずっていった。ちょうどそのときジェリーが近くにいたので、

「あれってなにをやっているの?」

「あれか?亡くなった男性は、カズがWatiyawanuに来る前にストアーで働いていたんだ。この場所には彼の足跡が残っている。だから彼の足跡を消すためにみんな木の枝を引きずっているんだ」

「なんでそんなことをしないといけないの?」

「足跡にはその人のスピリットが残る。だからそれを消すことで、そのスピリットが戻るべき場所に行く手助けをしてやるんだ。他にも、亡くなった人の持ち物とかも火で燃やしてやらなければいけない」

ジェリーの話を聞いている間も、続々と人がストアーに入ってきていて、すでに50人以上はいるように見える。やがて先頭がストアーから出て行くという頃に、やっと最後尾が入ってきた。店内は木の枝が地面にこすれる音だけが響き、一列にウネウネと動き回る彼らの姿は、一匹の巨大なヘビのように思えた。

その出来事があってから2週間ぐらいが過ぎ、夜ごはんをフェイたちと食べているときに、グラニスが、

「明日の夕方から教会でお葬式があるんだけど、あなたも出席するわよね?」

「うーん、どうしようかな?」

亡くなられた男性と親しかったわけでもなく、宗教も違うのだ。悩んでいる僕を見てグラニスが、

「教会でのお葬式はパブリックなものだから、あなたも参加することはできるわよ」 続いてフェイが、

「あなたはこのコミュニティにきてからよくやってくれているわ。だから、なにも心配しなくてもいいのよ」

「そうなんや。じゃあ参加するよ」

コミュニティで暮らす一人の人としてグラニスやフェイから誘われたことが素直に嬉しかった。グラニスの話では、明日のお葬式が終わればソーリー・ビジネスも終わるのだという。明日を過ぎればソーリー・キャンプで暮らすみんなもそれぞれの家に帰れるんだと考えると、思わず肩の力が抜けたような気持ちになった。

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