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ANDHANNAGGI -Walker River Clan Songs
ANDHANNAGGI-Walker River Clan Songs
NO CAAMA-243
Artist/Collecter Evan Wilfred(Didjeridu Player)
Media Type CD
Area 東アーネム・ランド
Recorded Year 1993年
Label CAAMA
Total Time 51:13
Price 2,450yen
Related Works Contemporary Master Series 5 : NUNDHIRRIBALA
東アーネム・ランドNumbulwarより北のアウトステーションAndhannaggiの録音。「Morning Star」ソング・サイクルがすばらしい(トラック9)。

■この録音をすることになったいきさつ

■アボリジナル文化とRex Mungurraのプロフィール

■アボリジナルの人々の歌について

■ライナー各曲の翻訳と解説

'93年10月5日東アーネム・ランドのWalker River付近のアウトステーション(アボリジナル居住区から遠く離れた辺境にアボリジナルの人々が集まって作っている集落、主にその部族にとって重要な土地ホームランドにあることが多い)にて録音。失われつつあるMangurraクランの伝統的な歌を後世に残したいという長老達の依頼で録音された。

Andhannaggiは地名で、カタカナにするとすればオンダーナグゲーと発音される。この土地にまつわる曲が歌われており、特に「Morning Star」ソング・サイクルの最後のトラック9では、このアルバムの中でも最もスピーディーでダイナミックで、その勇壮な曲調がすばらしい。またトラック10-17に収録されている、彼等のクランの名前でもある「Mangurra(ペリカン)」の曲と、唯一の3拍子の「Dolphine(イルカ)」の曲は秀逸。

アルバムの前半は録音時のマイクの位置が悪かったのか、ディジュリドゥの音量が小さいが、後半にかけてしっかりとした音量で録音されており、非常に聞きごたえがある。

Yothu Yindi Foundationからリリースされている『Contemporary Master Series 5 : NHUNDHIRRIBALA』(CD 2001 : YYF)と近いディジュリドゥの伴奏スタイルのように思われ、Andhannaggiアウトステーションから距離的に近いNumbulwarコミュニティでは、G〜Aという非常に高い音程のディジュリドゥが好まれるが、ここで使用されているのはD〜Eくらいのディープなサウンドで聞きやすく、どんな舌の動きをしているのかを推測しやすい。地図上でAndhannagiはNumbulwar地域の北部のアウトステーションである。この2種類を合わせて比較しながら聞いてみるのもおもしろいだろう。

ディジュリドゥの演奏スタイルとしてはCarpentaria湾沿いのYirrkalaの南部ということもあって、北東アーネム・ランドのヨォルングの演奏に近いが、トゥーツ(ホーン)の使い方が若干特殊で、短くポンポン入れるというよりは、ブレイクや曲の終わりを示唆する時や曲の頭に使われるトゥーツは1秒弱の持続性がある長目の音が意図的に使われている曲が多い。

また、ドローン部分で喉を開けたり、声を少し入れることでダイナミックな低音のうねりを聞くことができる(トラック8はとくにわかりやすい)。曲によっては、より伴奏的な丁寧でタイトな演奏しているが、一旦リズミックな曲調のバージョンになるとこのディジュリドゥ奏者本来の個性がはっきりとあらわれた即興的な演奏を聞くことができる。Andhannaggiの音源としては唯一である。

REX MANGGURRA : Songman
CHARLIE MUNUR : Songman
TED MANGURRA : Songman
EVAN WILFRED : Didjeridu Player

ブックレットは6Pで英語による解説とディジュリドゥ奏者やソングマンの写真も掲載されている。下記はライナーの半分をしめている「この録音をすることになったいきさつ」と「アボリジナル文化とRex Mungurraのプロフィール」、そして「アボリジナルの人々の歌について」書かれたJames Harveryの文章の翻訳です。

■この録音をすることになったいきさつ
ここに収録されている歌は、自分達の遺産を後世に残したいというアーネム・ランドのWalker River地域の伝統的な土地所有者の依頼に応えて録音された。Rex Mungurraは、レコーディングがはじまる前に尋ねられて下記のように述べている。

「今ではEm'(儀式を指す現地の言葉)は全て無くなってしまった。一体いつわしらはEm'を無くしてしまったんだ。"なんでドリーム・タイムなの?なんで儀式をしなくちゃいけないんだ?"と若者は尋ねる。子供達は一日中ビデオやテレビを見ている。今やそういったものが彼等の友達なんだよ!わしらは'em'(歌という意味の現地の言葉)を人々のために残すだろうか?おそらく、わしらが死んだ後に興味を持つかもしれないが、それじゃぁ遅すぎる。だから今わしらは'em'をテープレコーダーを前にして歌うんだよ」

1993年6月にWalker Riverで催された「A Man Making Corroboree」に特別に参加を許された私とその他12人の白人が彼等を訪ねた時に、この録音の依頼があった。数日続いたこのCorroboree(アボリジナルによる歌や踊りの祭りをあらわす英語)では、私の「部族的な父親」Ballaman Rex Mungurraが、彼と私が知り合って3年間で初めて歌を歌った。この経験は超越的なものであったために、私は儀式の最中、特にこの生き生きとした、力強いオールド・マンが歌う時にMungurraのクラン・ソングが表現している文化的かつ音楽的な至宝とは何かという事に気がついた。

Rexの提案は断ることができない申し出だったので、10月に我々は友人と仲間とともにWalker Riverへと戻って来た。Bruce Allan、Michael Cook、Sahni Hamilton、そしてDenise Warnerが「Walker Riverのクラン・ソング」をDATでの録音、ビデオでの録画をするために参加した。その時Rexは上機嫌で、彼の土地に関する全ての歌を録音したがっていた。しかしながら、彼はアーネム・ランド中で行われた数カ月におよぶ儀式での儀式的責務のために非常に疲れ、少し健康を害していた。結果的に我々はこの時には一日だけしか録音ができなかった。才能溢れる若きディジュリドゥ奏者Evan Wilfredの伴奏を伴い、Rexと一緒に歌っているのは彼の息子のCharlie MunurとTed Mungurraである。

まずRexが彼の言葉でストーリーを話し、アーネム・ランドで重要なソング・ライン「Morning Star(明けの明星 : 夜明けに東の空に上がる金星)」が歌われている。次にクランのトーテム(クランの精霊的存在や神々。その精霊や神は、霊的本質だけではなく、動物や植物、こしらえられた物などの姿でも現れる)である「ペリカン」、そして「サメ」、「クジラ」、「イルカ」のようなその他の生き物についての「Walker Riverの海側からの歌」が続く。このような歌は、それぞれの生き物に対する深い知識の一部を表現しており、彼等アボリジナルの男性達はその知識を持ち、自分達の伝統的な土地を世話するという意味合いがその歌にこめられている。

これらの歌はペーパー・バークの木(紙のような樹皮を持つメラルカの一種)の森の中にあるビラボン(川が作る三日月湖)そばで録音された。この録音では、鳥の声、コオロギや虫、そして森の中を通る風など自然の中に存在する自然音が録音背景に聞こえる。私達と一緒にこの儀式の音楽を聞いて学ぶために連れて来られた若者達から起った笑い声や、兄弟達が互いに話しているささやき声がときどき聞かれる。外で地面に座って、アイアン・ウッド(鉄の木と呼ばれるオーストラリアで最も硬い木)から作られたクラップスティックの強烈な音とディジュリドゥの心地よいドローン(持続低音)をバックにドリーミングのストーリーが歌われる。このようにしてアボリジナルの音楽が伝統的に演奏され楽しまれるのである。

ここに収録されているのはアボリジナルのドリームタイムと呼ばれる太古の昔からの音楽である。それは聞き手を日常の思考から意識の世界へと連れ出す、幻想とトランスを引き起こす。感性に訴える、鼓動するディジュリドゥの手綱と、この古代のソング・ラインの伝承に元来備わっているイメージ、情報、そして知恵を示すソングマンの詠唱によって私達は感服させられるのである。

ようこそ、これがWalker Riverのドリームタイムへの序奏です。ドリーム・タイムの道にそってこのオールド・マン達は簡潔なストーリーとイメージを共有している。これらの歌が彼等の土地を通って導く道を指し示し、連続性と目的地のあるドリームタイムの道「ソング・ライン」に沿って彼等は強い感情と信念をもって自分達の土地、そしてその土地の生物について語るのである。このような原始の音楽を聞くことで、その音楽、言語、そしてイメージに応えるという行為が我々まで残されてきたのだ。(このCDを聞くことで)あなた自身のドリーミングを追い求めて、何度も何度もその経験を楽しんでいただけたらと思います。

■アボリジナル文化とRex Mungurraのプロフィール

ここに収録されている音源は、Andhannaggi(on-dah-nag-geeと発音される)と呼ばれる東中央アーネム・ランドの音楽で、AndhannaggiとはBlue Mad Bayの沿岸にあるWalker Riverの両岸にそって住むMungurra(ペリカン)の人々の伝統的な土地であり、それは北オーストラリアの熱帯のトップ・エンド、Carpentaria湾に位置する。

このような伝統的な「ホームランド(故地)」は4万年以上の間そこに住んできたアボリジナルの人々の子孫によって管理されている。アーネム・ランドには伝統的なグループを形成する多様な言語を話す数多くのクラン(言語グループ)が存在している。それらはオーストラリアにおけるユニークで多様な文化の特徴的な一部分である。

今日アーネム・ランドのアボリジナルの人々は様々な伝統的言語を話し、ともにコミュニティに集まって住んでいる。それは20世紀になって英国国教会とカトリック教会の伝道活動によって寄せ集められた人々の関係したグループだが、そのコミュニティは様々である。「オーストラリアの黒い歴史」の大部分を占めるアボリジナルの文化的集団殺戮と、植民地支配の終結的活動の最中に、宣教師達は彼等自身の「福音主義的熱狂」を払いのけながらアボリジナルの人々をその死滅から守ろうと努めていた。

Mungurraクランの人々はRose Riverに位置するNumbulwarコミュニティを中心にしたNunggubuyu言語グループの一部であるRithathu語を話す(一般的にMungurraクランの人々はDhuwa半族でDiakui語を話すとされている)。Andhannaggiはアーネム・ランドの中でも最も古く、最もすばらしいアウトステーションの一つである。アウトステーションとは小さなクラン、もしくは家族の土地で、そこではアボリジナルの人々が自分達の伝統的なつながりとその土地に対する文化的責任を保ちながら住んでいる。最近では、様々な多くのクラン・グループが彼等の精神的文化に従事し、次の世代へとそれを受け渡すためにアウトステーションを建てることによって、古いミッション・コミュニティ(教会が管理するアボリジナルの居住地)から離れて生活することを選ぶようになった。

Rex Mungurraは部族の長老であり、ソングマンであり、そして法の守護者(アボリジナルの神聖な儀式的法律の守護者)でもある。彼は東アーネム・ランド全域とGroote Eylandtで行われる儀式に関して非常に活動的で、すばらしいディジュリドゥ製作者でもある。Rexはまさに本物の「高位のアボリジナルの男」で、完全な伝統的な通過儀礼の最後の所有者の一人である。彼は子供の時に、はじめて自分達の土地にやってきた白人を見た目撃者だった。「Ballaman」と呼ばれる彼はかなり高齢の老人で、その頃の「哀れなる時代」を今もはっきりと憶えている。その記憶というのは、自分の父親と母親、そして他の家族の一員を殺す「賞金稼ぎ達」の記憶である。Rexは一生の間に数多くの変化を目の当たりにしてきた。そして伝統的な法と儀式の強い擁護者であり続けている。彼はアボリジナル文化を保持していくためには、日々伝統的なアートを描き、自分達の文化に従事しようとしている自分の家族の人々をはげます必要があると信じている。彼等の絵画の図案と伝統に含蓄されているストーリーと知恵は、アボリジナルの人々、そして願わくば文化的に豊かな世界、そして「ドリームタイムのストーリー.....ずっと続く道」の真実を次世代に知らせるだろう。

■アボリジナルの人々の歌について
ここに録音されている歌は、太古の時代から演奏されてきた伝統的なアボリジナルの歌である。オーストラリアのアボリジナル文化における歌は、自分達の伝統的な土地に関して個人が所有している。それらの歌は、土地、法律、そして人々にまつわるドリームタイムから直接やってくる本質的な世界観の表現において、知識、歴史、そして神話の基本原理を形成している。アボリジナルの人々にとって神聖なデザインとそれに関したダンスと結び付いたこれらの歌は、「神聖な法と人々は一つである」という彼等の原始からある文化の中心的信仰を表現している知恵と情報の多層的な宝庫である。

ここに録音されている音楽は、全ての情報とWalker Riverでわきあがった感性のほんの一部であり、全ての種類のコラボリーとセレモニーの「喜ばしい時」(Bungle)にその音楽は、より生き生きとしたものになるのである。アボリジナルの神聖な法の秘密性のために、表面的な情報しか聞き手には提供できない。我々は小さな子供と同じくらいしかアボリジナルのドリーミングとの関係がない。だから、これらの歌の中に本来備わっている明確な意味合いとストーリーがここで紹介されているのです。より詳しい情報をここで紹介することは精神的にも霊的にも全ての人にとって危険である。しかしながら、メッセージの内容はかなり注意深くその中間に留められている。ここに皆さんと共有しているこのCDに収録されている音楽に没頭すれば、自分自身の感覚を通じてドリームタイムへの入り口にたどりつけるだろう。グッド・ラック。みなさんがAndhannaggiへの聴感上のトリップを楽しんでいただけたらと思います。

James Harvery / Alice Springs / July 1995

上記はライナーの解説の翻訳です。このCDには一つのソング・サイクルにつき複数の曲が収録されており、ライナーでは全てのトラックについての解説がされているというわけではありません。そのため曲の解説は、ソングサイクルごとにまとめてライナーの翻訳の後におこなっています。「上記はライナーの翻訳」ではじまる文章のみがレビュー内容になっています。レビュー部分で書かれている内容は推測の域を超えないものであることをご了承下さい。

■ライナー各曲の翻訳と解説
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。
Morning Star
1. Morning Star appears on the horizon-1st verse2. 2nd verse3. 3rd verse4. Morning Star moves higher in Sky-1st verse 5. 2nd verse6. Morning Star still higher as Sun appears-3 verse7. Morning Star rises, Sun chases her away-4 verse8. Morning Star disappearing, Sun full up(Radio Edit) 9. Morning Star gone, Sun over head now
Pelican
10. Pelican flying looking for fish-1st and 2nd verse11. Verse 3 and 4 12. Pelican hunting, diving, catch fish to eat13. 2nd verse14. 3rd verse15. Pelican resting after eating fish-verse 1 and 2 16. 3rd verse17. 4th verse
Shark
18. Shark at Walker River-1st and 2nd verse19. 3rd and 4th verse20. 5th verse
Dugong Rope
21. Making strong rope for hunting Dugong-7 verses
Whale
22. 'Big fish' travelling in Blue Mud Bay
Dolphine
23. Dolphin swimming, hunting fish-4 verses24. Dolphin blows misty water and breathes25. Dolphin playing in the waves
Salt Water
26. The Sea: wind & waves-3 verses27. ....the saltwater caming28. now smoth and shining29. Finish

MORNING STAR
1.Morning Star appears on the horizon 1 (明けの明星モーニング・スターが水平線の上に現れる)
長老でありリード・ソングマンでもあるRex Mungurraが「Morning Star」のストーリーを話している。彼はアーネム・ランドのAndhannaggiと呼ばれるWalker River水域にある土地の伝統的な言葉Nunggubuyu/Ritharngu語でストーリーを語っていおり、「Morning Star」と呼ばれるソング・ライン(ドリーミング・トラックとも呼ばれる「先祖の旅路の歌」)の口承伝承を朗唱している。「Morning Star」は「ドリーミングの外」からやってきて、その歌はAndhannagiiへの旅の途中に通ってきた場所を通ってやってきた。次にRexの「(血のつながりのない)部族的息子」であるCharlie Munurがこの歌は夜明け前の夜の中でも最も暗い時間からはじまるのだと英語で説明している。「太陽がめざめる前にMorning Starをさぁ起こそう」。Charlieによるとディジュリドゥは、このゆったりとした眠くなるような曲を「あの星に息をふきかけるために」高いオーバートーン(トゥーツと呼ばれるホーンの音)の長く強い一吹きではじめている。

2.Morning Star appears on the horizon 2
一般的に、このようなアーネム・ランドの歌は、ソングマンが発する即興的な1回もしくはそれ以上の長いメリスマ様式(グレゴリア歌唱のように一つの音節や短い歌詞を引き伸ばして歌われる方法)のエンディングで曲が終わる。彼等いわく、それはその曲に関しての個人的な感覚を表現しているという。このトラックでは他のソングマンが歌を終えたあともCharlieの歌声が聞かれる。彼の声は、最後の音をなめらかに下げていき、静けさに消えて終わっている。トラック3 / 3節目にはライナーの解説は無い。

3.Morning Star appears on the horizon 3
ライナー無し

4.Morning Star moves higher in Sky 1 (モーニング・スターはより天高く)
朝のそよ風が活発になるように吹きはじめ、そのテンポに合せてクラップスティックがたたかれている。クラップスティックは速い2倍の速度でたたかれ、そしてこのトラックの2番目の半分程の所で最初のゆっくりしたテンポにもどっている。実際に、「Morning Star」と共に来る夜明けにクラップスティックの速度をはやめており、これはその時の感覚と動きの変化への反応である。

5.Morning Star moves higher in Sky 2
今、ディジュリドゥの伴奏をともなったクラップスティックの正確なサウンドは強くなってきている。そしてこの節全体を通じてより勢いを増していっている。新しい一日へと向かっている。

6.Morning Star still higher as Sun appears 1-3 (太陽があらわれるにつれて、モーニング・スターはより高くのぼる)
Rex一人でこの節をはじめており、詠唱の繰返しがみられる。「O-u-u-u-u; a hump, hump, hump, hump, h-a-a-a」そして最後の「heee」という歌詞の部分は、太陽があらわれるのを見つめながら歌われている。

7.Morning Star rises, Sun chases her away 1-4 (モーニング・スターはのぼり、太陽は彼女を追いはらう)
早いテンポで3曲、そして4曲目は力強い心拍くらいの速度のクラップスティックで、ゆったりと長い曲で、その節の繰返しへとひき戻すディジュリドゥのみのパートは特徴的である。

8.Morning Star disappearing, Sun full up-Radio Edit 1 (モーニング・スターは消え去ろうとしている 日はすっかりのぼっている)
トラック7の4曲目と同じ、長い節で、ちょうど真ん中あたりのディジュリドゥのみのパートでは「噴射」するかのような激しいサウンドが聞かれる。力強く、ユニークな和声楽の表面に表れない動きと、ディジュリドゥの対位法的な演奏は、ドリームタイムの故地に育まれた音楽のすばらしい例である。

9.Morning Star gone, Sun over head now 1-3 (モーニング・スターは去り、今太陽はまさに天頂にある)
Rexが終楽章を紹介している。ここでのディジュリドゥは「ポン」という高いハーモニクスと声を装飾的に混ぜ、生き生きとした演奏がされている。この歌の最初の半分程は地面をアイアン・ウッドから作られたクラップスティックでたたき、そして最後には強く互いに打ち付けて曲を終えている。

上記はライナーの翻訳。トラック1〜9に収録されている「Morning Star」ソングはアーネム・ランドのアボリジナルの人々にとって最も重要な神話にまつわるテーマの一つで、その詳細については『Goyulan-The Mornig Star』(Cassette 1978/82 : AIATSIS)や『The Land of the Morning Star』(LP 年代不明 : His Master's Voice)のライナーに詳しく書かれているので参照していただきたい。

トラック1の大半はソングマンRexによって「Morning Star」について語られている。トラック1〜6はゆったりとしたテンポで歌詞の内容は違うかもしれないが、曲構成とディジュリドゥの伴奏はほぼ同じ。長い力強いトゥーツ(ホーン音)ではじめらており、ブレイクとエンディングにも同様の長いトゥーツが聞かれる2/4拍子の曲である。ディジュリドゥの演奏には即興的要素は薄く、よりタイトな伴奏的な演奏になっている。

トラック7からクラップスティックは2倍の速度で叩かれており、ディジュリドゥは同じリズムだが、短くリズミックなトゥーツが曲中にアクセントとして、またエンディングにも使われている。歌もそれに合せて激しく歌われていて、このソング・サイクルの一つの山場のようである。トラック7の最後の節では再度ゆったりとした速度の曲調に戻っている。

トラック8でもゆったりしたテンポのまま演奏は続き、なぜかここでのディジュリドゥの音量は大きく、細かい倍音成分を聞き取ることができ、このプレイヤーの演奏の特徴が良く聞き取れる。喉をしっかりと開いた高い倍音が聞かれ、ドローンの低音部分がメロディックに音程がついているのがわかる。

トラック9は楽曲的に最も優れた音楽的構造で、ライナーにもあるが冒頭から途中まで早めのテンポで地面にクラップスティックをうちつけ、途中、ディジュリドゥのコールを合図にコンコンと2回だけ鳴らし、その後ディジュリドゥの「Da-ruDa-ruDa-ruDa-ru DupuroDupuDoroDoro」というトゥーツを含んだ合図からたて続けにクラップスティックがたたかれるという非常にダイナミックな曲構成である。ディジュリドゥの演奏自体も即興性の強いリズミックなドローンをベースにトゥーツとコールが飛び交うフラクタルな演奏に変わり、最もリズミックかつ非常に聞かせる内容になっている。

Pelican
10. Pelican flying looking for fish 1-2 (ペリカンが魚を探しながら飛んでいる)
彼等の言葉でペリカンを意味する「Mungurra」という言葉で終わる長く、感情的なメリスマ(歌詞の1音節に多数の音が当てて歌われ、その歌のメロディが装飾的で表情豊かになる歌い方)で1節目は終わっている。そしてRexは「我々はMungurraだ」と言明した。これは「我々はペリカンで、これが我々の土地である」ということを意味している。Charlieはまず自分の言葉で、そして英語で、「ペリカンは今、自分のえさである魚を探して飛んでいる」と話している。2節目が続く。

11. Pelican flying looking for fish 3-4
ペリカンが浜辺と三日月湖の上を魚を探して飛んでいるという歌。

12. Pelican hunting, diving, catch fish to eat 1 (ペリカンは狩りをし、海に潜り、食べる魚を捕まえる)
ライナー無し

13. Pelican hunting, diving, catch fish to eat 2
Rexの歌う長くのばしたメリスマが聞かれる。

14. Pelican hunting, diving, catch fish to eat 3
ライナー無し

15. Pelican resting after eating fish 1-2 (ペリカンは魚を食べた後に休んでいる)
1節目と2節目の間ではバックにブロルガ(豪州鶴)の声とソングマンのCharlieとその兄弟Tedが話し合う声が聞かれる。Rexは次の節を歌いはじめる。ディジュリドゥのその特徴的なドローンの音色を聞き、彼等も歌に参加している。

16. Pelican resting after eating fish 3
Charlieの歌う長くのばしたメリスマが聞かれる。

17. Pelican resting after eating fish 4
Rexの歌う長くのばしたメリスマが聞かれる。

上記はライナ−の翻訳。ペリカン・ソングのディジュリドゥの伴奏では今迄に無く、曲中で印象的にトゥーツが多用されている。特にトラック15では、連続的にトゥーツとドローンを切り替え続ける北東/東アーネム・ランド特有のリズムが演奏されているが、このディジュリドゥ奏者のトゥーツは北東アーネム・ランドのヨォルングのイダキ奏者のそれと比べると、アタック感が薄く、どちらかと言えばドローンからスライドさせるかのような演奏のように思われる。ここで演奏されている「Du-Doro Du-Doro」という2ビートのリズムではトゥーツからのドローンへの移行も非常にスムーズで自然で、同じ様なリズムでは北東アーネム・ランドの録音では「DupuDoro DupuDoro」といったより16分(音符)を感じさせるようなフレーズで演奏されている。

またこのペリカン・ソングの演奏になってからドローンにより複雑な倍音が聞かれ、ルーズな唇でのダイナミックな演奏をしていると思われるこのディジュリドゥ奏者の演奏能力が光る内容になっている。特に注目したいのは、前述のスムーズなドローン/トゥーツ間の移行である。

Shark
18. Shark at Walker River 1-2 (Walker River河口のサメ)
Rexはクリオール語(アーネム・ランドで使われる英語とアボリジナルの言葉が統合された言葉)で、Walker Riverの河口に住んでいる「ドリームタイムのサメ」の逸話について話し、Charlieが英語でそのテーマを述べている。「Walker River河口のサメ」ソングの1〜2節目は、新しいエネルギーと音楽に躍動を表わしているより早いテンポの歌で、間違い無くサメのエネルギーとその性格と関連がある。

19. Shark at Walker River 3-4
ライナー無し

20. Shark at Walker River 5
曲半分程まで早いテンポで演奏され、サメがWalker Riverに休むためにやってくる時、曲がパタリと終わる。

上記はライナーの翻訳。トラック18-19は、4/4拍子で展開するペリカン・ソングに非常に似通った、トゥーツを曲中のアクセントとして、そしてエンディングに使った早めのテンポの曲で、トラック20のみペリカン・ソング同様トゥーツとドローンが連続的に切り替わる伴奏になっている。

Dugong Rope
21. Making strong rope for hunting Dugong 1-7 (ジュゴン漁のための強いロープを作る)
Charlieが彼の言語で歌について話し、ジュゴン漁のためのロープを作ることについて歌っている。彼等はそのロープを銛に結び付ける。彼等は歌っている間中、ジュゴンを捕まえる事と、食べ物を待っているキャンプの人々に持って帰るおいしい食料を得るという事を想像している。7節収録されている内4節が早く、そして残りは3節はゆったりと演奏されている。3節目と4節目の間では、ディジュリドゥ奏者のEvanが彼のいとこからからかわれているのが聞かれる。

上記はライナーの翻訳。全体を通してディジュリドゥの演奏に複雑なイントロ部分は見られず、長くのばした「Derei-ro-」や「Ditu-ro-」といったドローンか、「Dit Ditu-」といった短く舌でアタリをつけてからはじめるかのどちらかが多いようだ。

このトラックに収録されているジュゴン・ソングでは後半の3節が秀逸で、ここでも他の歌と同じリズムを使ったディジュリドゥの演奏が聞かれる。特に最後の7節目は「Dituro- Dhereiro- Dituro- Dhereiro Du-ro」といったディープでゆったりしたリズムを倍音豊かに演奏している。

Whale
22. 'Big fish' travelling in Blue Mud Bay 1-4
Charlieはほとんどを英語で時にアボリジナルの言葉を使いながら彼の考えを述べ、神聖なこの生き物の名前を明らかにすることなくこの歌を紹介している。「ドリームタイムについて歌われており、ドリームタイムにおける終結部分の方へとまっすぐ向かわないといけない。」、「この歌には意味があり、全ての歌に意味がある。昔、年寄達がわしにどうやって'em'(歌)や儀式を扱うかを教えてくれた。」と彼は述べている。「わしらは、アボリジナルのドリームタイムの鍵のSkin(関係)である歌にまつわる文化、法、言語の危機にひんしている。」

4節中3節は早く、そして4節目はディジュリドゥの装飾的な演奏をともなったゆっくりしたテンポで演奏されている。最後の部分で名人的なディジュリドゥのパートがある、非常に力強く、激しい音楽である。

上記はライナーの翻訳。ディジュリドゥの演奏はこの録音の後半にむけてよりタイトな演奏になっている。この曲も同じパターンを使った伴奏になっている。

Dolphine
23. Dolphin swimming, hunting fish 1-4 (イルカは泳ぎ、魚を追っている)
Charlieがイルカについて、そしてどのようにしてこの歌が長老から伝えられたかを話している。誰もいないその昔に、「昔の人々は古代にそれらの歌を手にした」、そして最初にどうやってこの歌を手にしたのかを今も記憶されている。「このイルカ・ソングは、代々若い人々が歌ってきた。だからわしらもどうやって歌うかを知ることができるんだ」。4節中2節が早く、残り2節が遅いテンポで演奏されている。

24. Dolphin blows misty water and breathes 1-4 (イルカは霧のような水を吹き上げ、息をする)
3拍目を強調して叩かれるクラップスティックをともなったうねる歌のメロディとシンコペーションしたディジュリドゥのサウンドは、イルカが寄せる白波を泳ぐ姿を生き生きと描いている。繰返し歌われている「IEE-Swa」という歌詞は、イルカが瞬間的に海面に出た時に息を吹き、すばやく息を吸い込む様子を表わしている。最後の4節目の最初の半分程までは、地面にクラップスティックをたたきつけ、残り半分は互いにたたきつけて演奏されている。

25. Dolphin playing in the waves-Radio Edit (イルカが波間で遊んでいる)
最後の節は地面にクラップスティックをたたきつけてはじまり、次に互いにたたきつけて演奏されている。3拍子のリズムにのった周期的なパターンは、催眠的な歌のメロディと洗練されたディジュリドゥの対比を強調している。

上記はライナーの翻訳。後半になればなるほど、タイトになってくるEvan Wilfredのディジュリドゥの演奏はここにきてその極みにきている。ドローンに含まれる倍音は複雑にからみあい、ブレスによって変動することのない安定した唇の状態を感じさせる演奏である。トラック23ではディジュリドゥは4/4拍子で今迄の歌の伴奏と同じリズムで演奏されているが、4節目のみゆっくりとしたテンポの6/4拍子で演奏されている。

トラック24/25ではこのアルバムではじめて3/4拍子で演奏されており、「Dituro Dherei-Ro-」といったリズムをベースに一部即興演奏も聞くことができる。特にトラック24の3節目のディジュリドゥの伴奏がすばらしい。ドローン部分では3拍子の1拍目に強拍がおかれ、ブレイクとエンディングでは3拍目とその次に来る1拍目に連続してトゥーツが使われており、非常に印象的な曲になっている。

Salt Water
26. The Sea: wind & waves 1-3 (海 : 風と波)
Charlieは、ソングライン(ドリーミング・トラックとも呼ばれる「先祖の旅路の歌」)と「輝く海の海水」について語っている。「ドリームタイム。ストーリー。あなたはずっと'em'(歌)に沿って行かなければいけない! ......ドリームタイム、ずっと続いている道。」

27. ....the saltwater calming 1-2 (海水は穏やかになってきている)
ライナー無し。

28. now smoth and shining (今海水はなだらかで輝いている)
ライナー無し。

29. Finish
海水、海はとどまっている。Walker Riverの「Seaside Dreaming」のこの日の歌の終わりである。

上記はライナーの翻訳。トラック26の半分程はCharlieによって述べられた会話で、1-2節目は残りトラック10のペリカン・ソングと同じディジュリドゥの伴奏が聞かれる。3節目はトゥーツとドローンを激しく入れ替える早いテンポの曲になっている。

トラック27/28/29ではゆったりとしたリズムになって「Dituro Dhereiro」と2/4で繰返すディジュリドゥが曲中で長いトゥーツを演奏する時には4分(音符)でたたいているクラップスティックはピタリと止まる。ソングマンは長くのばした一息で歌い、その最後に何かの言葉をパッと言い放っており、その内容に非常に興味がそそられるが、ライナーではそのことには触れていない。