White Cockatoo Performing Group
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1. Gunborrkって何?

過去の資料やCDの解説などによく登場するGunborrkって言葉、これは一体何なんだ!ずーっと謎だったこの問いをはじめてオーストラリアに行った時にアーネム・ランド西南部に位置するWugularrコミュニティ出身の若いアボリジナル男性に聞いたら、「雨っていう意味だよ」と答えていたけれど、Gunborrkという言葉そのものが何を意味するのかは定かではない。実際にはGunborrkは、アーネム・ランド西部〜中央部にかけて広く聞かれるある特定の種類の唄、そしてその唄の伴奏をするディジュリドゥに必要な演奏スタイルを指して使われることが多いようだ。

今回のWhite Cockatooのツアーの時に各メンバーにGunborrkの意味を聞いてみるのもおもしろいかもしれない。

表記としては「Kunbjorrk」、「Gunborg」というつづりまで様々。なぜこんなややこしい事が起こるのかというと、アボリジナルの人達は書き言葉を持たないため、彼らの発音する言葉を聞いた研究者達が聴感上の響きから「あて字」を作るからだ。僕個人としては中央アーネム・ランドのManingridaコミュニティが正式に使っている表記「Gunborrk」をその標準として使用している。

2. Gunborrkソングが唄われる地域

地図を見てほしい。Gunborrkソングが演奏される地域は中央アーネム・ランドから南東へはKatherineまで、そして西南へはアーネム・ランドを横断してクイーンズランド州のBorroloolaまでかなりの広い範囲に渡っている。地図右上のヨォルング文化圏にGunborrkの広まりはない。そして、Katherine以遠にもその広がりが無い。こういった現象はなぜおこるんだろうか?

GunborrkソングはKunwinjku(Guningu)語、Mayali(Mialili)語、Kune語などを話す人びとの間で唄われる。これらの言語はそれぞれ別々のものだと認識されていて、それによってGunborrkの唄われるエリアについてわかりにくさが生まれていた。しかし、最近になってこれらの西部アーネム・ランドの言語にはある程度の共通性があり、「Bininj Gun-Wok」という総称でまとめるという流れがある。

そう考えると、Gunborrkソングを唄う人達のグループにまとまりが生まれ、彼らが住むエリアをまとめれば広範囲に渡っているという事はより明確になる。

3. Gunborrkソングの広がり

広い範囲で唄われるGunborrkソング。その理由は何なのだろうか?ここからは僕の想像の域をでることはない単なる推論になる。「アーネム・ランドの中でも比較的アクセスが容易な西部アーネム・ランドでは、北東部にくらべて早い段階から白人の開発の手があった。つまり、かつてはそれぞれの言語グループが伝統的に自分たちのホームランドに住んでいたが、白人の牧場開発などによる強制移動や、ミッションが作ったコミュニティへの集団的移動などによって言語グループが拡散した。」というのが僕の推論だ。この「言語グループの拡散」がGunborrkが広範囲で聞かれる原因の一つじゃないだろうか?

そう仮定すれば、いったん拡散した各言語グループが定期的に儀礼を行うには、儀式を担う大人の男性がある程度の人数必要になる。しかし、同じグループのメンバーが少人数しかいないエリアでは、Corroboree(アボリジナルの唄と踊りを指す言葉)をすることがむずかしくなる。そういう時に必要とされたのが「儀式をになう一座」とでもいうべきプロの音楽家集団である。

なかでも有名なのはDavid Blanasiがディジュリドゥ奏者をしていた事でも知られる希代のソングマンDjoli Laiwangaが率いていた一座だ。アーネム・ランドには古来こういった職業ミュージシャン集団があり、その中でもDjoli Laiwangaのグループは人気が高く、アーネム・ランド中を席巻し、その演奏の舞台が世界にまで発展した類いまれなグループだと言える。

つまりDjoli Laiwangaの一座のようなプロの音楽家集団が、自分たちの唄を各地で演奏してまわる事によってその唄が現地の人々へ伝わり、そこでまた異なるグループによって同じ曲が演奏されるようになるという現象がおこる。これがGunborrkソングが広がったポジティブな一面だと思われる。また、それを強烈に後押ししているのはDjoli Laiwangaの一座の唄・ディジュリドゥ・ダンス、そのいずれもがすばらしかったという事なのは言うまでもない。

要約すると

  1. 白人社会のアボリジナルの土地への浸食によって、自分たちの土地からの強制移動で引き起こされる人の離散
  2. ミッションによるコミュニティへの多言語グループの集中
  3. 交通手段が徒歩やボートだった昔では巨大な川や断崖などの物理的環境による境界線があったが、移動手段の発達と共に人の動きも流動的になった。
  4. 古来からあるプロのミュージシャン集団の演奏活動によってGunborrkソングがひろまった。

などいくつかの要素が複雑にからみあって現在の状態が引き起こされているように思える。

そして現在の状況をその延長線上で捉えると、飛行機など移動手段の発達による異なる文化圏のアボリジナルの移動が活発になる事で、Gunborrkソングの分布図は将来的に急速に変わって行くかもしれない。そういう意味でも今回来日するGunborrkソングが唄われるエリアを代表する唯一のグループといってもいい「White Cockatoo Performing Group」をなまで見れる事はかなり貴重な機会だと思う。是非会場に足を運んでほしい。

4. 唄のテーマ

Gunborrkソングは、クラップスティックを両手に持った最低一人以上のソングマン、一人のディジュリドゥ奏者、そして複数のダンサーで構成されるグループで演奏される。父親や親戚のおじなど父方の家系の男性から唄を学び引き継いだり、ソングマン自身がすでに亡くなったソングマンの霊や精霊から夢の中で唄をもらうという形で唄を獲得する。じゃぁ彼らの唄の内容というのは一体どんなものなんだろうか?

では、実際にDjoli Laiwangaの唄のタイトルを見ることで、どんな事が唄われるのかを探ってみよう。

【自然現象と動植物】
ブロルガ(豪州鶴)、ホワイト・カカトゥ(黄色のトサカのある大きな白いオオム)、ゴアナ(大トカゲ)、鳩、ポッサム、雲、乾期の風、睡蓮、ヤムイモ、フクロウなど自然界の現象、動物の動きや植物の特徴などがテーマになっている曲。

【精霊など】
デビル(死者の霊)、ミミ・スピリット(洞窟に住む爪の長い精霊)、乾いた土地のデビルデビルなど精霊に関する唄。

【日常の出来事】
「二日の眠り」、「みじかいけんかの唄」、「ラブソング」、「恋人同士が言い争う唄」、「誰かの足跡」など生活の中の一部の風景を切り取ったストーリーなどが唄われる。

「自然現象と動植物」そして「精霊など」をテーマにした唄は、アーネム・ランド全域で歌われる。中でも特に「日常の出来事」をテーマにした唄は、Gunborrkソングの特徴の一つで、僕らがタイトルを見ただけでは何のことやらわからない。けれど、現地の人がその唄を聞けば、日常のなんでもない生活風景を唄っていても、その中にある人間模様などを伝える「ゴシップ・ソング」になる。この要素がGunborrkソングのユニークな特徴の一つになっている。

5. MAGO - Gunborrkのディジュリドゥの特徴

西部アーネム・ランドから中央アーネム・ランドにかけてGunborrkの伴奏に使うディジュリドゥは、「Mago(Magu/Mako)」と呼ばれている。発音は「Ma:go」とアをのばして発音される。主に現地でイエロー・ボックスと呼ばれる種類の、繊維が入り組んだ、硬質のユーカリが使われ、比較的短く、内部の空洞が大きめ、そして薄めに削られた楽器が使われる事が多い。

このような楽器はよりルーズに、ダイナミックに唇が振動する。非常にオープンな音質で、「ドローン(持続低音)」の倍音は豊か、そしてそのサウンドはよく「渦巻く風」に例えられる。北東/中央アーネム・ランドのディジュリドゥの演奏の最大の特徴である「プー」というトランペットのような音「トゥーツ(ホーン)」は、Gunborrkでは使われない。また高い声を使った「コール」と呼ばれる演奏技術も使われない(David Blanasiのディジュリドゥ・ソロでは聞くことができるが、伝統的な唄の伴奏では使われない)。

つまり、Gunborrkではドローンのみで全ての楽曲の伴奏をするという事になる。これは一体何を意味するのか?それを掘り下げるために、逆に「トゥーツ」と「コール」は北東アーネム・ランドではどういうふうに使われるのかというのを調べてみたい。

「トゥーツ」と「コール」。この二種類の音色は、風にたとえられるフラットな印象の音である「ドローン」から抜き出て来るような印象を受ける。ようするにドローン音よりも目立つ。という事はディジュリドゥの音を聞いて踊るダンサー達や、曲展開をにぎっているソングマンにとっても、はっきりと認識しやすい音色と言える。だから、即興性を重要視した音楽性を持つ北東アーネム・ランドの楽曲ではドローン音ではなく、トゥーツやコールをディジュリドゥ側からの合図として、次の曲展開、具体的にはブレイクもしくはエンディングへと進む場合などに使われる(曲によって様々なバリエーションがある)。他にもコールなどは動物の鳴き声などを模写して使われる事もある。ようするにこの二種類の音色は、ソングマン、ダンサー、ディジュリドゥ奏者、この三者間での即興性を高めるための合図として使われている。

それでは、逆にこの二種類の音を使わないGunborrkの楽曲は一体どうなっているのだろう?その答えは「曲の展開が完全に決められている」という事だ。曲展開やある特定のリズムパターンの部分の尺が完全に決まっているため、ディジュリドゥ奏者が決まった尺の中でリズムパターンを自由に遊ぶことはあっても、ディジュリドゥ側から即興的に曲展開にアプローチする必要がない。これがGunborrkのディジュリドゥ演奏の最大の特徴といえる。なぜかというとこの点にディジュリドゥ奏者の意識が集中しているであろうと思えるからだ。

そのため、東アーネム・ランドのディジュリドゥの演奏には楽曲に深く関わる音楽的センスと高度なリズム感覚が必要とされる。そして西アーネム・ランドのディジュリドゥ奏者は曲を完全に覚える記憶力とブルースにも似たソングマンの曲調にぴったりと寄り添うような叙情的な感覚が不可欠と言える。

そう考えると、Gunborrkではソングマンは唄をうたいながらも、指揮者としてダンスとディジュリドゥの演奏の両方を導くという立場にある事がわかる。さらに、Corroboreeの演奏で使うディジュリドゥを選ぶ権利はソングマンにある点も非常に興味深い。これは低音から高音まで幅広いメロディー展開をするGunborrkソングを歌う場合、ソングマンの声の高さに合う音程のディジュリドゥじゃないとかなり歌いづらいからだ。グループ全体と楽曲に関してソングマンの支配権が非常に強いソング・スタイルだと言える。

これを裏付ける言葉として、アーネム・ランド全体を通じてディジュリドゥ奏者が口にする言葉がある。「クラップスティックをしっかり聞け!そしてそれをフォローするんだ。」これこそがアボリジナルのディジュリドゥ奏者が曲の伴奏中に意識している点であり、ソングマンがCorroboreeの中心だという事を証明する言葉だと思う。

また、余談ではあるが東西アーネム・ランドのディジュリドゥの演奏スタイルの違いについての逸話がある。北東アーネム・ランドが輩出したロック・バンド「Yothu Yindi」の初代ディジュリドゥ奏者Milkayngu Munungularrの自宅を訪ねて、レッスンしてもらった時に西と東のディジュリドゥの演奏スタイルの違いについて聞いた。そうすると「俺たちヨォルングの舌の動きはHard Tongue(激しい舌の動き)だ。そして西の演奏スタイルではSoft Tongue(やわらかいスムーズな舌の動き)なんだ。」と答えた。そこでさらに「舌の動き以外で違う部分は?」とつっこんで聞くと「That's all(それだけだよ)」と言い、実際にデモンストレートしてくれた。音を聞けば、まさに彼の言うとおりだった。

6. Gunborrkを楽しもう

Gunborrkソングの特徴のうちでも忘れてはいけないのは、ダイナミックで激しく壮麗で美しいダンスだ。大地を激しく踏みつけるステップ、そして曲のブレイク部分では砂を空に蹴り上げながら、ジャンプしてコマのようにグワッと回る。見ていて飽きることがまったくないその動きは、ディジュリドゥとクラップスティックにガッチリとはまっている。

ダンサーの叫び声、足踏みの音、手や太ももを打ち鳴らす音、それに呼応するディジュリドゥとクラップスティックのサウンド、そして時に激しく時にゆったりと唄いあげるソングマンの唄声が一体となってドライブする各演者の躍動感と興奮は、いやおうが無く見ているものに伝染してくる。

「White Cockatoo Performing Group」を体験する人たちには、彼らが体現する大地の熱のような鼓動に身をまかせ、脳みそを真っ白にしてもらいたい。同じアホなら.....。会場で叫びたおしている僕を見ても決して声をかけないように。

-GORI 2006.4.1-
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