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SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 2 -Eastern Arnhem Land
SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 2 -Eastern Arnhem Land
NO AIAS-2CD
Artist/Collecter Alice M. Moyle(Recorder)
Media Type LP/CD
Area 東アーネム・ランド、Groote Eylandt
Recorded Year 1962-63年
Label AIATSIS
Total Time 47:43
Price 在庫なし
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ABORIGINAL SOUND INSTRUMENTS Contemporary Master Series 5 : NUNDHIRRIBALA        
東アーネム・ランドのNumbulwarのブロルガ・カラバリーを中心に、超絶ディジュリドゥ奏者MagunとMungayanaの弾けるようにリズミックなソロも収録!

■東アーネム・ランドの音楽概要
■ライナーの翻訳と解説
■Numbulwar周辺地域の録音を含んだ音源

全人類マストバイなこのシリーズの中でも、ポップミュージックに分類したくなる程メロディアスで、アバンギャルドな要素を多分に含んだ、主に新旧のブロルガ(豪州鶴:灰色の鶴、一生つがいで過ごす。表ジャケット参照)のクラン・ソングと、ディジュリドゥソロを多数収録しています。LPで発売されたものの再発盤CDです。

中でも現在ソングマンとして多方面で活躍する東アーネム・ランドのNumbulwarのディジュリドゥ奏者Mungayanaと、もう1人のNumbulwarの超絶ディジュリドゥ奏者Magunの演奏はどれもすばらしい!また北東アーネム・ランドのDjapuクラン(ヨォルング)のJimmy Dagdagのディジュリドゥもすさまじく、この地域のディジュリドゥの演奏スタイルは、アーネム・ランドの中でも、もっとも洗練された演奏スタイルの一つであると言えるかもしれない。

この5種類のシリーズの中でも13トラック中12トラックにディジュリドゥが収録されており、内容もすさまじい一枚です。

下記は、ライナーに掲載されているAlice M. Moyle博士の著述による東アーネム・ランドの音楽についての音楽概要の翻訳です。このシリーズ全5作品に共通して書かれている文章の翻訳に関しては、vol. 1のページにその全翻訳が掲載されています。ここでは文章の繰返しになるため、割愛されています。

■東アーネム・ランドの音楽概要
音楽的分類の目的でみれば、「東アーネムランド」は沖合の島々も含めた北東地域、はるかRoper Riverまで南に沿岸に沿ってひろがる東地域、Carpentaria湾の北西のGroote Eylandt諸島の三つにわけられる。

このCDに収録されているフィールド・レコーディングは、東地域のRose River河口のアボリジナル居住地Numbulwarで録音された。そこで話されている言語はNunggubuyuである。当時Numbulwarに住んでいたDjapu語を話すYolngu(ヨォルング:北東アーネムランドの言葉でPeople[人々]を表わす言葉で、この地域のアボリジナルを指す)の人々のいくつかのサンプルも収録されている。彼等自身の土地は、はるか北のCaledon Bayにある。

Disc2に収録されている歌は、最も白人入植地と継続的接触が少ないアボリジナルの人々の音楽である。Numbulwarではミッションによる居住地(Church Missionary Society:教会宣教協会)が1952年という最近になって設立された。

1970年代以降、アボリジナル居住地では数多くの変化が起こって来た。ミッションと政府による居住地は、現在ではアボリジナルの人々の手によって自ら運営されるコミュニティ・センターとなり、多くのアボリジナルの人々は、多かれ少なかれそういった場所よりも、彼等の伝統的地域、もしくはホームランドにあるアウトステーション(アボリジナル居住区から遠く離れた辺境にアボリジナルの人々が集まって作っている集落、主にその部族もしくはクランにとって重要な土地ホームランドにあることが多いようだ)に永住するようになった。

1960年代に演奏され、録音された東アーネム・ランドの「クラン・ソング(同一の言語グループに属する歌)」(全て男性が歌っていた)の特徴は、下記の通りである。

  1. 大きく異なる2種類の音を活用したディジュリドゥの伴奏(高い、もしくは吹き込んだ音と基本音の隔りは、ほぼ10度差あるが、ディジュリドゥの長さや形によって異なる)

  2. (例えば、西アーネム・ランドの歌と比較すれば)ヴォーカルの音程の幅が狭く、5〜6度の差を超えることはなく、おそらく6度以上になることは無いだろう。

  3. 歌詞には意味があり、訳す事が可能で、クランの持つ領域とその神話に関係している。

  4. 「Unaccompanied Vocal Termination(UVT)」、つまり伴奏をともなわずにボーカルだけで曲を終えること。ボーカルによるソング・アイテムの終了、もしくは伴奏楽器の演奏が止まった後に、ボーカルだけが残る。Disc3のTrack11とDisc4のTrack1は、この(4). の特徴の良い例である。

歌の反復部分は、一連の言葉とシラブル(音節)か、長く伸ばした一つのシラブル、もしくは鳥の鳴き声などのボーカル・サウンドのパターンの繰り返し、このいずれかで構成されているようだ。こうしたコール(掛け声/動物の鳴き声/叫び声などを指す)は、東アーネム・ランドで演奏される数多くの反復フレーズのような構造、もしくは特定の部分的構造の中に組み込まれている。

Nunggubuyu語で歌われているDisc2に収録されている歌は、一曲以外は全て「New Brolga(新しいスタイルのブロルガ-豪州ヅル-の歌)」に関する歌で、「New Brolga」スタイルに鳴き声や、喉を開いて発音するスラーという音楽的特徴を持ち込んだ最初の人物は、トラック 9のシンガーNgardhangiだと言われている。曲中に聞こえる、この明らかに広い音域(約12度差)をカバーしている「Cry(叫び声)」は、ツルが自分の故郷を忍んで鳴いているものとして歌われている。1つ目の歌の後に、2つの歌が続き、それぞれが軽快な速度で進み、「Durrk Durrk」のようなさえずるような声で曲が終わる。ヴォーカル部分の間にあるブレイクでは、ディジュリドゥとスティックの伴奏が曲の続きを維持している。

録音当時、ほとんど演奏される事が無くなっていた「Old Brolga」スタイルのクラン・ソングでは、上述の東アーネム・ランドの4つの特徴全てが見られる。

■ライナーの翻訳と解説
DISC 2 : ABORIGINAL MUSIC FROM EASTERN ARNHEM LAND
Numbulwar 1963 : 1-5. Brolga Corroboree
Groote Eylandt 1962 : 6. Brolga(1-2) sung by Arrama with Mungayana(didjeridu)
Numbulwar 1963 : 7. Brolga(1-2) sung by Gulundu with Magun(didjeridu)8. Didjeridu only by Magun9. Brolga sung by Ngardhangi with Mungayana(didjeridu / Didjeridu only10. Feathered Strings sung by Larangana with Mungayana(didjeridu) / Didjeridu only by Mungayana11.(a)Morning Star Song(b)Pigeon(1-2)Gabuyingl with Dagdag12.(a)Brolga(1-2) by Gabuyingi with Dagdag(didjeirdu)/ Didjeridu only13. Song words by Gamargadada
※曲名をクリックするとその曲の解説へ飛びます。

下記は24Pというかなりのページ数のブックレットに解説されている各曲解説の翻訳に加えて、「上記はライナーの翻訳」という文章ではじまる段落には、ディジュリドゥのサウンドを中心に、音の響きからくる聴感上の主観的な感想と各曲に特徴的な音楽的構造や楽器の特徴などのレビューが掲載されています。レビューの部分で書かれている内容はAlice M. Moyle博士が書かれたライナーとは全く関係がありません。そこでされている言及は推測の域を超えるものではないという事をご了承下さい。

Numbulwar 1963
1. Brolga corroboree sung by Gulundu, Ngardhangi and Arrama with Rimili(didjeridu)
item 1-5(Brolga items alternate with Fish and Feathered String items sung by Larangana and Djingudi with Rimili)
2. Brolga corroboree, item 6-10
3. Brolga corroboree, item 11-15
4. Brolga corroboree, item 16-19
5. Brolga corroboree, item 20-22

最初の5トラックは、完全なCorroboree(カラバリー:アボリジナルの歌と踊りを指す英語)の連続的な録音をリスナーが聞きやすいように5つのトラックに分けられています。Mandhayung半族の2つのクランによる22曲の歌が収録されており、NgalmiクランからはGulundu(1922年生れ)、Ngardhangi(1933年生れ)、Arrama(1938年生れ)の3人のシンガーによる「ブロルガ」の歌を収録、MurungunクランからはLarangana(1910年生れ)がDjingudiと共に歌った「魚」と「鳥の羽のついたヒモ」の2種類の歌を収録している。両方のクランのディジュリドゥの伴奏は、Mandhayung半族のNunggargalungクランのRimili(1938年生れ)によって、つまることなく演奏されている。全ての演奏を通じて、それぞれのクランのシンガーの交代が規則的に行われた。その順番は下記の通りである。

    Items by Ngalmi Singers
    1. The Brolgas Come In
    3. Another Flock Arrives
    5. Another Flock Arrives
    7. Daybreak
    9. Daybreak
    11. Brolgas Coming from Warkala
    13. Still Coming from Warkala, Ramiyu and Karangarri
    15. Daybreak
    17. Brolgas Coming from Warkala
    19. Brolgas Coming from Warkala
    21. Brolgas Coming(finish)
    Items by Murungun Singers
    2. Yambirrigu(fish)
    4. Yambirrigu(fish)
    6. Yambirrigu(fish)
    8. Dhambul(feathered strings)
    10. Dhambul(feathered strings)
    12. Dhambul(feathered strings)
    14. Dhambul(feathered strings)
    16. Dhambul('stand up', that is hold up the sticks by whic the feathered strings are hoisted)
    18. Dhambul
    20. Dhambul
    22. Dhambul(finish)

ダンサー達は、ソロ、ペアー、そして頻繁にグループで踊りを踊る。15人以上の男達が互いに円陣を組んで踊ったり、翼のように両腕を伸ばし鳥のように片足で飛びはね、並んで一列になって踊ったりする。ダンサー達の鳥のさえずるような声は、シンガー達によって繰り返される鳥の鳴き声と混ざりあう。

女性と少女達は、踊りに参加せずに見守っている。

そばで見ている人達は、興奮した全体の雰囲気の一因であり、かん高い声で会話する彼等の声をこの録音の中で聞く事ができる。

それぞれのクランの歌が終わった後(それぞれトラック21と22)には、自分達の演奏が終わったと叫ぶ声が聞こえる。カラバリーが終わった後の私の質問に答えて、もう特別に歌は無いと言われ、彼等はそのままカラバリーを終えた。これは西アーネム・ランドの「Blue Tangue Corroboree」(Disc1 Track 2)における最後の曲Manbadjanに関して、私に知らされた情報とは対照的な見解である。トラック1〜5の「Brolga Corroboree」で歌を歌った3人の男性のすばらしいソロの歌がトラック6、7、9に収録されています。

こうした「New Brolga Song」を「見つけた(作った)」人達は、互いに自由に歌を交換しあってるように思える。Arramaともう一人のシンガーDabuluの「見つけた(作った)」Ngardhangiクランのブロルガの歌を、1962年にGroote EylandtにてGulunduが歌っていた。

上記はライナーの翻訳。東アーネム・ランドのNhumbulwarにて'63年録音。トラック1〜5は、25分以上にも渡るBrolgaのカラバリーを割愛することなく丸まる全て収録している壮絶な内容でし。トラック2の中盤で聞かれるトゥーツとドローンをすさまじい勢いで繰返したり、ミドル・テンポの曲でトゥーツやコールを自由に即興でフラクタルに演奏したりと、両方の半族の歌の伴奏を演奏をしているRimili(当時25才)の演奏がすさまじい!興奮した子供の笑い声や奇声、大人達の掛け声が飛び交う臨場感たっぷりのこれぞカラバリーという雰囲気に溢れ、ブロルガ(豪州ヅル)のイメージが伝わってくるヨウナ最高の録音内容です。

Groote Eylandt 1962
6. Brolga(1-2) sung by Arrama with Mungayana(didjeridu)

ここに収録されている2曲のブロルガの歌を「見つけた(作った)」シンガーArramaは、この録音当時、たまたまGroote Eylandtを訪れていた。彼の歌はたくさんのGroote Eylandtの若者の聴衆を引きつけ、まるで彼の歌がAngurugu Riverに飛び散ったかのように、次の日には聴いていたGroote Eylandtの若者達に歌われていた。

Arramaはたいてい、つんざくような鼻音を出しながら、大きい声でブロルガの鳴き声を歌いはじめる。二つのメイン・パートがあり、それぞれのパートは鳥の鳴き声のような震えた声で中断される。その時の短い連続的な声はたった5度の音程の幅しかないが、オープニングの「Cry(叫び声)」の音程は1オクターブと幅広く引き伸ばされている。この東アーネム・ランドの新しい歌唱法と、時に西アーネム・ランドのシンガー達の中に見られる「descending vocal glide(一つの音節のみを切れ目なく滑らかに下げていくアボリジナルの歌唱における特徴の一つ)」の間のつながりについての疑問を述べる事は容易だが、確信を持って答えるのは難しい。

他のブロルガ・ソングのシンガー達と同様に、Arramaの歌もブロルガの先祖の故郷「Karangarri」から灼熱の太陽のもとにこの灰色の鶴ブルルガが飛び立つ様子が歌われている。ツルが向こうへと飛んで行く時にその鳴き声が聞こえる。言葉ではない歌の部分と、すばやく明確に発音される歌の部分が引き起こすブロルガ・ソングにみられるコントラストに匹敵するような歌はオーストラリアにはみられない。

Mungayana(1946年生まれ)によって演奏されているディジュリドゥの伴奏は、意図的にツルの足取りを真似ていると思われる短いもしくは長い韻律的なパターンで始る。同様のリズム・パターンがトラック12のヨォルングのディジュリドゥ奏者Balamumuの演奏でもみられる。Arramaやトラック9のシンガーNgardhangiが歌う「New Brolga」の録音例では、他の東アーネム・ランドの曲とは違って、ディジュリドゥで曲がスタートしている。(Disc 1の西アーネム・ランドの歌と比べてみて下さい。)

上記はライナーの翻訳。'62年Groote Eylandtにて録音。ディジュリドゥはMungayana(当時16歳)。1-5のBrolgaもこのトラックもArrama(当時24歳)による作曲だが、このトラックでは同じ低音のディジュリドゥで、ゆったりとした曲調から高度なリズム・センスが要求されるトゥーツをリズミックかつ複雑に織り交ぜた曲調へと変わるすさまじい演奏です。2曲目の後半部分で聞かれる、ヨォルングの演奏よりもさらにタイトで細かく刻んだ舌の動きに注目したい。彼等がGroote Eylandt島を訪れた時の録音で、哀愁をおびた、せつない響きになっていて、陽気な雰囲気の1-5トラックとは対照的。歌のメロディ、ディジュリドゥの演奏、いずれも最高の音源です。またライナーで、Alice Moyleが考察しようとしてやめている西アーネム・ランドの影響というのも非常に気にかかるポイントである。

現在Numbulwarのセレモニアル・リーダーのソングマンとして活動するMungayanaの歌が『Contemporary Master Series 5: NUNDHIRRIBALA』(CD 2001 : YYF)で聞くことができる。

Numbulwar 1963
7. Brolga(1-2) sung by Gulundu with Magun(didjeridu)

Gulunduの膨大な歌のレパートリーには、ブロルガ・ソングやその他のクラン・ソングだけでなく、スティックと歌のみで演奏される特別な儀式「Madyin」もそのレパートリーにある。聞けばわかるように、彼の声はコントロールされているけれどもかん高く、歌詞の発音ははっきりしていて正確である。Gulunduのブロルガ・ソングの歌詞のいくつかは、トラック13で語られている。語られた歌詞の翻訳は、実際に歌われている歌詞の順番通りではなく、繰り返し部分以外はそれぞれのパフォーマンスの時々で変えて歌っているようであるということに気付く。

1曲目はGulundu自身が夢の中で授かった歌で、他の人達に「Old Brolga」スタイルの歌だと言われている。シンガーがより従来の音楽的スタイルを明らかに好んでいる事、特に伴奏楽器が止まった後にも歌が続くという特徴「Unaccompanied Vocal Termination(UVT)」(冒頭の「東アーネム・ランドの音楽概要」を参照)が、この曲が「Old Brolga」スタイルの歌であるということを証明している。これらの曲ではイントロ部分がボーカルで始ることがなく、その事がこの曲を「Old Brolga」スタイルたらしめている。

上記はライナーの翻訳。'63年Numbulwarにて録音。ディジュリドゥはMagun(当時20歳)でEくらいのピッチの楽器を使用している。歌はすばらしいが、ディジュリドゥの音が少し小さいのが残念である。「Old Brolga」スタイルの曲で、東アーネム・ランドの「クラン・ソング」の4つの特徴全てを兼ね備えている。

8.(a)Didjeridu only
(b)Mouth sounds by Magun

ここで収録されている「Lhambilbig(ディジュリドゥ)」のデモンストレーションは、一つ前のBrolga(トラック7)の伴奏を再び演奏して欲しいという要望に応えて、シンガーの協力なしのソロでディジュリドゥが演奏されている。Magun(1943年生まれ)はディジュリドゥを演奏している間中、ディジュリドゥを指の爪ではじいており、歌と共にディジュリドゥが演奏される時には、この指の爪によるタッピングはシンガーの打つスティックと同時に演奏される。「Didjeridu-talk(Mouth-sounds)」の実演者としても、Magunは見事なリズム・コントロールを発揮し、他の人達と違って、笑うことなく首尾一貫してきっちりとやり遂げようとしていた。

上記はライナーの翻訳。'63年Numbulwarにて録音。Magunによる圧巻のLhambilbig(ディジュリドゥ)のソロ演奏が収録されています。ここまで聞かせるソロがあっただろうか? ハードコアなまでにリズミックでダイナミズムのある演奏で、東アーネム・ランドのディジュリドゥの演奏スタイルの技術、ひいては北オーストラリアのアボリジナルの人々のディジュリドゥの演奏における技術を全て集約させたような、ドローン、コール、トゥーツが複雑にからみあったリズムを演奏している。また、終わってからリズムを歌っているため非常に参考にもなる超絶な内容になっている。『ABORIGINAL SOUND INSTRUMENTS』(CD 1963-68/1996 : AIATSIS)にもMagunによる同じ曲のソロがトラック13に、『ABORIGINAL MUSIC FROM AUSTRALIA』(LP 1959-68 : Philips/UNESCO)にはブロルガ・ソングの伴奏が収録されている。

9.(a)Brolga sung by Ngardhangi with Mungayana(didjeridu)
(b)Didjeridu only
(c)Mouth sounds

当時、Nunggubuyu語を話す複数のシンガー達によれば、Ngardhangiはブロルガ・ソングにおける最高のシンガーだと言われていた。ある種の画一性が全ての現代の演奏、もしくは「New Brolga」の演奏を通して存続しているのだが、Ngardhangiの歌には、ミュージシャン個人としての特徴が見られる。非常に長いディジュリドゥのイントロ部分の後に来る、彼の発する「Cry(叫び声)」のタイミングは注目すべき点である。鳥のような震える声は、繊細に行われており、その叫び声と歌のコントラストが目立つことはない。

上記はライナーの翻訳。'63年Numbulwarにて録音。当代一のシンガーと言われていたNgardhangiの歌というだけあって、ここで1曲収録されているブロルガ・ソングは非常に音楽的で、インド古典音楽の声楽にも通じるようなハリのあるすばらしい歌声である。また、Mungayanaのディジュリドゥの伴奏は、トゥーツの入らないドローン部分では非常にシンプルなリズムを繰り返して演奏し、ブレイクして曲が展開し出すとリズミックでフラクタルなトゥーツを複雑に入れたリズムを即興的に演奏し、クラップスティックとユニゾンしたいわゆる「決め」の部分を経て、再度ゆったりになりエンディングで再びダイナミックな演奏になっている。

次に収録されているMungayanaのソロは、途中からかなりスピーディーになり、その速度は驚異的である。タイトにソングマンをフォローしているトラック9(a)とはうって変わって、自由に即興を楽しんでいるかのような演奏です。彼のマウス・サウンドではコールの部分を「Kara Kara」と表現している点が非常に特徴的である。

10.(a)Feathered Strings sung by Larangana with Mungayana(didjeridu)
(b)Didjeridu only
(c)Mouth sounds by Mungayana
(d)Mouth sounds by Larangana

Murungunクランのソング・シリーズに属する「Dhambul(Feathered String)」の歌。物語によると、2羽の先祖の鳥が、羽をからみあわせたヒモを持ち、そのヒモの下をその他の鳥達が通ったという。ここでLaranganaが歌っているスタイルは、彼がトラック1〜5のカラバリーで演奏したものと似通っている。

トラック11(a)の伴奏部分だけをMungayanaが演奏しており、音楽的に適切な伴奏のリズム・パターンのすばらしい表現を披露している。この後に演奏者が使ったマウス・テクニックの短い実演をそれぞれの演奏者が披露している。Laranganaのマウス・サウンドの実演を聞けば、クランのシンガー達はたんに歌詞やその曲をよく練習しているだけではなく、伴奏をするディジュリドウに関するテクニックも同様に訓練しているのだという事がはっきりとわかる。

上記はライナーの翻訳。'63年Numbulwarにて録音。Mungayanaによるディジュリドゥの演奏は、過激に早いトゥーツとドローンの繰り返しがすさまじい。だが、実際のディジュリドゥのマウス・ソングはごく普通の話してるくらいの感じで驚くほど自然である。伝統的な演奏方法のすばらしさがこのギャップで理解できる。常にリズムに合せて、高い倍音が聞こえるのは、もちろん使用している楽器の特性もあるだろうが、おそらく喉を開くことで生まれるサウンドと思われる。つまり常に喉を開いた状態をキープするように演奏されているのではないかと推定される。ディジュリドゥ・ソロの吹きはじめに聞こえるプスーっという空気のもれる音が聞こえる。非常に少ない息の量で演奏しているという証拠であると同時に、北東アーネム・ランドのように一気に唇を作るイントロ部分の演奏方法の他に、西アーネム・ランドのフェード・インしてくるスムーズなドローンで演奏を始める方法の2種類が混在している地域であるということもわかる。

11.(a)Morning Star sung by Gabuyingi with Dagdag(didjeridu)
(b)Pigeon(1-2)Gabuyingl with Dagdag

ここに収録されているトラック11(a)は、東アーネム・ランドでは「Balamumu」という名で知られるヨォルングの人々のグループによる演奏である。以前に述べたように、当時彼等はNumbulwarのNunggubuyu言語グループの人々に隣接したキャンプに住んでいた。

DjapuクランのシンガーであるGabuyingi(1933年生まれ)が歌っている「Barnumbirr(Morning Star)」ソングの歌詞によると、Morning Starがよく知られた多くの土地の上を通り過ぎて行くのが見える。繰り返して歌われる「birrirri birrirri birrirri」という歌詞は星の輝きを表わしている。

トラック11(b)の「Pigeon(Nhapalawul or Gukuk : はと)」は、母鳥が自分の幼い子供に話しかけ、飛ぶように教えている。Pigeonソングの1曲目と2曲目でディジュリドゥの音程が変わっており、代用されたもう一本のディジュリドゥは、ここではシンガーの声の音程に著しく影響しなかった。トラック11(c)のソロでは、ディジュリドゥ奏者は最初の楽器に戻して演奏している。まず第一にシンガーの歌の音程の幅に合っているディジュリドゥが選ばれる西アーネム・ランドでは、伴奏用の楽器を変えられるということはない。東アーネム・ランドでは、演奏者の唇にその吹き口がより心地よく合うなら別の楽器が代わりに用いられる。ヨォルングの言葉でディジュリドゥは「Yidaki」である。

上記はライナーの翻訳。この当時Numbulwarに住んでいたヨォルング、Djapuクランの人々による演奏。Yidaki(イダキ:ディジュリドゥ)はJimmy Dagdag(当時25歳)で、KeyはEとC#あたりの2本を使用していると思われる。マウス・サウンドを聞くことで、最後のイダキソロの基本のリズムの聞こえ方が少し違うわけがわかる貴重な内容です。

ABORIGINAL MUSIC FROM AUSTRALIA』(LP 1959-69 : Philips/UNESCO)にも同じDjapuクランのMorning StarとPigeonがトラック9に収録されていて、このトラックよりもディジュリドゥの音が大きく、聞きやすい。またこのCDのトラックでトゥーツの一歩手前のようなサウンドで演奏されている部分が非常に特徴的である。曲の頭のディジュリドゥの吹きはじめの部分はヨォルングらしい演奏のスタートのさせかたで、トラック10のMungayanaの演奏する吹きはじめの部分と比較して聞いてみて欲しい。

12.(a)Brolga(1-2) by Gabuyingi with Dagdag(didjeirdu)
(b)Didjeridu and mouth series

Gabuyingiのブロルガ・ソングWuraywura)のメロディには、トラック6〜9に収録されているNunggubuyuクランのブロルガ・ソングに少し類似している部分がある。Nunggubuyuクランのブロルガ・ソングの伴奏者達にも知られている古典的な「Walking Rhythm」で演奏されているディジュリドゥのパートは、生き生きとしたダンスのステップの跳躍と均衡をとった姿勢で踊られる。ディジュリドゥ奏者Jimmy Dagdag(1938年生まれ)は、ショウマンシップの才能とエネルギーに溢れたミュージシャンで、熱狂的な頼みを聞いてディジュリドゥのマウス・サウンドを披露し、子供達に受けて、笑い声などのにぎやかな反応を得ている。

上記はライナーの翻訳。トラック11と同じDjapuクランの演奏者によるブロルガ・ソングです。歌とディジュリドゥ、その伴奏のリズムを演奏したディジュリドゥ・ソロ、そしてそのマウス・ソングが入っているという究極的にこの曲への理解を深めやすいすばらしいセット録音です。コールが非常にダイナミックなヨォルングの代表的なブロルガ・ソングである。

13. Song words spoken by Gamargadada for track 7; by Bagalangai for song 12(a)
Numbulwarで録音されたトラック7と12の歌詞をそれぞれのグループを代表する二人の男性によって語られている。1人はNunggubuyu語を話すGamargadadaで、彼は数多くのNumbulwarのブロルガ・ソングを熟知しており、もう1人のBagalangaiは、はるか北からのクラン・シンガーである。

    (a) Colin Gamargadadaによって語られたGurdarrgu(Brolga)ソングの歌詞1.
    ngi-warragarra-lh-ara ngi-rri-nhadhamarr-i
    all-stand- -come behind-
    ngi-lhangudhadharrbi-na ngi-rri-njgurami-na
    go-different places go-round
    ama-wiriyalyal ngi-wulawulag-ana
    grass-nut from-many-groups
    ngi-walgirri gurruwurwur
    calling-out different places brolga-name

    (b) Colin Gamargadadaによって語られたGurdarrgu(Brolga)ソングの歌詞2.
    ngi-rlundu-wanjbaj ngi-rlundu-wanjbaj
    groups-different groups-different
    nimbirri-nga-yanjjang-ayi yaa yaagila
    hear-each other here-coming
    ngi-lhangudhadharrbi-na yaagila
    go-different places here-coming
    nimbirri-nga-yanjjang-ayi yaagila
    hear-each other here-coming
    a-garangarri-wala yaagila
    country-from name here-coming

    (c) Bagalangaiによって語られたDangurrji(Brolga)ソングの歌詞
    wuraywuraywuray langarr mayulmirr
    brolga-or brolga sounds plains plains
    bangana wayin dhum dhum wanganan
    brolga bird bird talk(he said)
    brr-brr-brr-brr-brr-brr
    brr-brr-brr-brr-brr-brr
    durrk durrk durrk
    wuraywuraywuray
    djalwa djalwa djalwa
    walking along, preparing to fly
    langarr mayulmirr
    brr-brr-brr-brr-brr-brr
    durrk durrk durrk
■Numbulwar周辺地域の録音を含んだ音源
・『A CHANGING CULTURE -Songs from Mornington Island』(Cassette 1975-78/1991 : Social Science Press) *1曲収録
・『ABORIGINAL MUSIC FROM AUSTRALIA -Unesco Collection Musical Sources』(LP/CD 1959-69 : PHILIPS/UNESCO) *トラック7
・『ABORIGINAL SOUND INSTRUMENTS』(CD 1963-68/1996 : AIATSIS) *数曲収録
・『SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 2』(CD 1961-63/1996 : AIATSIS) *多数収録しており、かなり秀逸
・『SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 3』(CD 1961-63/1996 : AIATSIS) *トラック5のみ
・『SONGS FROM THE NORTHERN TERRITORY 5』(CD 1961-63/1996 : AIATSIS) *2曲収録(ディジュリドゥなし)